新創監査法人

PART3  IFRS適用のムーブメントは中堅企業と中小監査法人から
日本の会計基準はどこに向かうのか
柳澤
日本の会計制度としてIFRSとJ-GAAPと、まさにその中間のものが公開草案で登場しました。J-IFRSやJMIS(Japan’s Modified International Standards)と言っていますが、これについて加藤先生はどのように思われますか。
加藤
日本の考え方や実務、会社法、税法などとの関係で、日本としてどうしても受け入れられないところだけは削除または修正して、日本に合ったIFRSを作りましょうと企業会計審議会が当面の方針として出しました。それに基づいてASBJが一年間かけてチェックした結果、30項目くらいの削除又は修正候補の差異が挙げられ、最後に残ったのが二つでした。その一つが「のれん」で、もう一つが「包括利益」です。
 のれんについては、日本では最高20年で規則的に償却して、兆候があった時だけ減損します。仮に投資先の業績が悪くなっても、きちんと償却しているから、IFRSのように損失が一時にボーンと出ることはありません。ただ安易に定期的に償却するために、投資先の業績をシビアに見ないところが問題なのですが、日本の経営者たちは単純に償却しているほうが安心なんですね。ですから、規則償却しないで毎年厳格な減損処理をするIFRSを、日本式に直してくれと修正事項に入れました。
 もう一つは「包括利益」といいまして、たとえば株式のような有価証券を公正価値で再評価する場合、IFRSはその評価差額をその他の包括利益に入れて、そこにずっと入れたままで当期純損益に戻さないんです。これをノンリサイクル処理と言っていますが、日本の企業にとっては評価差額が包括利益に入ったままで、有価証券を売ったときでもそれが純損益に出て来ないのは困ると主張しています。それから、もう一つ大きな問題が「退職給付引当金」ですね。これには数理計算上の差異というのがあり、退職引当金を計算する時の基礎データ(勤続年数、死亡率、割引率、年金資産の運用収益率等)には、どうしても予測と実績で差が出てきます。このような差異もIFRSの場合は、全部その他の包括利益に入れて、純損益に永久に出てこないんです。それに対して、退職給付引当金の数理計算上の差異は労務費の一部であり、それが包括利益に入ったままで棚卸資産の原価計算に入れられないのは困る、だからリサイクルするべきだと日本のメーカーが中心になって主張しています。 以上の、のれんと包括利益の処理の二つだけを修正して日本版のIFRSを作ろうと公開草案が出されています。
 ところが、これがあまり評判が良くなくて、日経新聞は社説で「日本に4つも会計基準はいらない」と言っています。日本はアメリカ基準の採用も認めていますから4つになるんですね。企業会計審議会は、4つの基準の並存状態は仮の姿でいずれ収斂されると言っています。どれがなくなるかは分かりませんが、多分私は、修正国際基準が最初になくなると思いますが…(笑)
柳澤
修正版IFRSで良いとなると、トーセイのようにピュアIFRSをやっている会社の梯子を外すような話になりかねないですよね。
加藤
私がASBJにいたときに、当局の考え方を聞いたことがありますが、修正版IFRSは階段みたいなものだという印象を受けました。日本基準からいきなりピュアIFRSに行くのはギャップが大き過ぎるので、途中に修正版IFRSという階段を作って一旦そちらに移って、それから数年したらピュアIFRSに行けるようにするという考え方だったんです。ところが、修正国際基準の評判があんまり良くないし、ほとんど使われないでしょうね。いずれ無くなって、最後に残るのはコンバージェンスされた日本基準と、ピュアIFRSだと予想する人が多いと思います。トーセイによるピュアIFRSの選択は、正しかったと思いますよ。
なぜ日本企業はIFRSを適用しないのか
山口
世界は社数からするとアメリカ基準を使っている会社と、アジアはピュアIFRSだと思いますが、実際どうなんですか。
柳澤
アメリカと日本以外は基本的にはピュアIFRSがベースです。国によって多少カーブアウトしているところはありますが。
加藤
ヨーロッパでもヘッジ会計の部分だけカーブアウトしているんですよ。これは金融機関など特殊なところだけのカーブアウトです。
柳澤
アメリカの会社も、ヨーロッパにも上場しているような大きなところはアメリカ基準を使いながら、IFRSでも作っていますよね。グローバル企業でありながらIFRSを作っていないのは日本だけかもしれません。
加藤
まだ強制適用が認められていない主要な企業は、日本とアメリカの国内企業ですね。アメリカの証券取引所でも外国からの上場会社にはIFRSを認めていますが、アメリカの、国内企業に関しては、残念ながら任意適用すら認めていません。IFRS普及において一番遅れているのはアメリカの国内企業なんです。次は日本のIFRS任意適用止まりで、あと残りの国はほとんどIFRSを使っています。
山口
僕はIFRS適用を実際にやってみて、本当に会社にとってプラスだったんですけど、どうしてIFRS適用のムーブメントが起こっていないんでしょう。
加藤
私は二つあると思います。一つは日本国内のメーカーですね。製造業はIFRSに対して、ちょっと後ろ向きなところがあるんです。これは企業会計審議会のある委員の人達が誤解しているのですが、「IFRSは在庫も有形固定資産も全部公正価値で測定しなければいけない」と言っていました。しかもバランスシートオンリーで、損益計算書なんか一切無視しているとも言っています。だから、IFRSは製造業には向かなくて、これはM&Aの会計基準だとも言っている人達がいます。でも、それらは誤解なんです。
 それから、日本でIFRS普及が進まないもう一つの要因はアメリカの動きです。日本は政治的にも経済的にも、官民を含めて、みんなアメリカの動向を見ていますから、アメリカがIFRSに行かないのに日本だけ先に行く必要はないという意見を持っている人達が多いということがあります。
柳澤
あと、これは会計士側がいけないと思うのですが、ちゃんと社長と向き合ってIFRSのことを日本の会計士も話していないと思うんですよね。特に日本の監査法人はIFRSの専門家チームを作っているところもあり、会社側が監査人にIFRSの話をすると、じゃあ専門チームを連れてきますと、なにか大事になってしまって、費用も掛かるだろうし、その辺が壁を高くしているような気もします。
加藤
実は、日本の国策としてIFRSの任意適用会社を増やすということになっているんですよね。というのも、今年の6月に政府の閣議決定が行われた「日本再興戦略」の中にIFRSの任意適用企業の拡大促進に努めるという言葉が入ったのです。ですから、私はもっと国を挙げてIFRSの任意適用を促進させなきゃいけないと思いますね。それには、公認会計士協会もひと肌脱いでいただかないといけないですね。
柳澤
トーセイのように、いろいろな会社がIFRS適用という実績をどんどん作っていけばいいですよね。
加藤
IFRSの任意適用要件が緩和されて、いまは上場会社でなくても使えますから、これからIPOするような会社が最初からIFRSを使うということも増えてくるでしょうね。
山口
海外を視野に入れている会社にとっては本当にプラスがありますから、私はぜひおすすめします。大手の外資投資ファンドからのアセットマネジメントの声がけがあったり、以前はこちらから「トーセイでございます」とプレゼンして、一緒に投資しましょうという形だったのですが、向こうからどんどん来るようになりました。実際、成約もしています。台湾の会社や投資家さんも昨年は10件以上契約しています。
会社が監査法人に期待すること
柳澤
東証とSGXにダブル上場した山口社長から見て、監査法人に対する期待や求めることをお聞かせください。
山口
まず発行体として監査法人や公認会計士業界に求めるのは、連単一致をできるだけ進めていただきたいですね。あと弊社のような中堅企業になると、新創のような中堅監査法人との組み合わせが非常にいいんです。以前には、監査法人の画一的なルールに当てはめられて困ったこともありました。本当に会社を見て判断をしているのかと思いました。
加藤
よくある話ですよね。ある一部の監査法人では、内部のコミュニケーションが出来ていないようなところがあるようです。
山口
新創の大所高所の判断は的確ですし、将来に向けての宿題や検討の要請は厳しいですよ。それでいて新しいこと、今回のネクシアとのセットやレビュー、セットアップの時間の掛け方も合理的で非常に適正にやっていただきました。これは本当に中堅の監査法人の良さだと感じています。
柳澤
それぞれの監査法人で良さや特徴はありますが、我々のアドバンテージは、一社一社に対してカスタマイズした仕事ができるということなんですね。IFRSもそうですけど、監査法人側の一方的な考え方を押し付けるのではなくて、会社の実態に応じて、個々の問題解決に柔軟性を持っていくことが必要だと思います。
加藤
私も昔は大手監査法人にいたので、大手のことがよく分かっているうえでの話ですが、新創監査法人のような中堅のところは、こまめに会社の実態をよく理解して、きちんとした対応ができると思うんですね。中堅監査法人の方たちは自主性、自立性、独自性があってユニークな発想をされます。もちろん大手監査法人には技術力や信用力にはすばらしいものがありますが、一方ではサラリーマン的になって、誰かが決めてくれるというところがどうしてもあります。そういう点では新創のような中堅監査法人が、これから任意適用の会社を増やしていく大きな力になっていくと思います。
柳澤
中堅企業と中小監査法人の組み合わせがIFRS適用に最適だとPRして、日本の国策に貢献していきたいと思います(笑)。あっという間に時間が過ぎてしまいました。とても有意義なお話ができたと大変に感謝いたします。山口社長、加藤先生、本日はどうもありがとうございました。

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