柳澤義一
プロフィール
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1956年東京都生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。公認会計士・税理士。
新創監査法人の統括代表社員として、上場企業の会計監査を中心に幅広い分野で活動。2004年より日本公認会計士協会常務理事。 2013年より日本公認会計士協会東京会会長並びに日本公認会計士協会(本部)副会長に就任。
相川高志
プロフィール
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慶應義塾大学経済学部卒業。公認会計士。
新創監査法人の社員として、現在は上場企業の会計監査を中心に活動。
日本公認会計士協会IFRS特別委員会委員。
- 柳澤
- いよいよ本題のIFRS任意適用の話に入ります。シンガポールはIFRSで、日本は日本基準でいきますと社長に話したとき、「だったら日本もIFRSにしたらどうか」と社長のほうからおっしゃったんですよね。当時の日本ではまだ8社しか適用していませんから、不動産業界では初めてだし、我々も初めて。ただSGX上場時に検討したからやれることはやれる。ただ、インパクトは大きいですよとお話したときに、社長が「やりましょう」と言った(笑)。
- 加藤
- それはすごい。社長が率先して言い始めるというのは感動です。私も日本でIFRS適用を拡大しようとするグループの一人として活動していますが、海外の会社の場合はトップが会計の知識もあるし、関心も持つケースが多いんですね。ところが、前に話したように、日本の場合はそうではないことが多いので、部下が苦労するわけですよ。社長にIFRSを適用することのメリットを説明して納得してもらってトップダウンで決めてもらうことが、日本ではなかなか大変なんですね。
- 柳澤
- 社長の会計に対する理解が進んでいないと、日本もIFRSにしようという発想は出て来ないですよね。私も、「え、本当にやるの!? 」と思いました(笑)。実際にやってみて面白かったのは、連結がIFRSで単体が日本基準という「連単分離」を会社側としてはなるべく近づけたいという話になりまして、分析検討していくと単体決算においても日本基準の範囲内でもほとんどIFRSに寄せることができるとわかってきました。
たとえば、フリーレント期間(賃借料が免除される契約開始後の数ヵ月間)の家賃収入の認識は日本の会計慣行としては認識しませんが、IFRSでは認識します。でも実は日本基準においても認識できるわけで、むしろそちらのほうが正しいんじゃないかと思います。いろいろな基準が日本基準の中でカバーできるものがほとんどなんですよね。だからトーセイにおいても、極めてIFRSでの連結に近い基準で単体が作れました。
- 加藤
- その判断はすごくいいと思いますよ。この点は会計基準を作っている関係者に対するメッセージとしても大きいですね。これは日本の会計が少し遅れていることを示唆しています。今の日本の会計基準でも、厳格な発生主義でいけば、賃貸期間にわたって収益を認識するのが本来あるべき姿だと私は思います。
- 柳澤
- それから次に気づいたのが、これは税制の問題だということです。単体で賃貸期間にわたって収益を認識すると、収益が先に出てしまって税金がかかる。そこを社長が飲み込めるかなんです。
- 加藤
- フリーレントの扱いは、大手の不動産会社でもインパクトがあるわけでしょうね?
- 柳澤
- それがおそらく大手の不動産会社がIFRSを適用しにくい理由の一つだと思います。単体も連結に合わせると一時の税金負担が激しいですから。
- 山口
- 最後はタイムラグなんですけどね。
- 加藤
- 厳格な発生主義でやってそれだけ利益が先に上がってくるわけだから、投資家にとっても喜ばしいことなんですよね。税金の先払い問題については、たとえば税務当局に働きかけるとか、そのくらいのことがあってもいいと私は思います。税法や会社法が、日本でIFRSを普及させる一つのネックになっているんですよ。その点、韓国は税務当局の関心度が高く、配慮してくれるところがあります。
たとえばIFRSの中に機能通貨という考え方があって、外貨換算するときに、たとえば船舶会社のように、ほとんどドル建てで船賃収入を計算して船舶運用コストの支払もドルでやるというような会社は、ドルが機能通貨と見做されてドルで財務諸表を作ることになります。でも日本の会社法、税法には機能通貨という考え方はなくて、税金も配当金も円で払っています。そういうところに、日本の税務当局は特別の取り扱いを認めてくれません。ところが感心なのは、韓国は、「だったら税金もドルで払っていいですよ」と税務当局がIFRSに対してものすごく理解があって手当してくれるんです。日本におけるIFRSの適用拡大策の一つとしては、やはり税務当局なり法務当局なりがもっとIFRSを理解して配慮してくれることが必要だと思います。
- 山口
- IFRS拡大に向けて発行体として思うのは、やはりそもそもの連単不一致が不具合で、連結はIFRS 、単体は日本基準というダブルスタンダードはよろしくないので、そこは業界をあげて変えて欲しいなと思います。
- 加藤
- 実は数年前までは、会計基準関係者も連単一致が本来だという考え方だったんです。ところが、例の自見金融担当大臣(当時)の声明があってからは流れがガラッと変わって、あのときから連単分離が当たり前だということになってしまいました。昨年企業会計審議会から出された「当面の方針」でも連単分離が前提になっていますが、私も社長と同じでこれを連単一致にするように関係者は努力すべきだと思います。実務においてその方向性の先鞭をつけたのはトーセイですから、素晴らしいことですよ。
私は、連単一致は単に会計だけの問題ではなくて、会社全体の経営の問題だと思います。会社の経営方針とその結果を表す財務報告の方針は、本来同じ理念に基づくべきものだと思います。会社の利益管理や経営管理は日本ベース、外部に出す財務諸表はIFRSベースというのはおかしいですよね。会社の内部管理や管理会計もIFRSでやる。それが本来の会社経営の在り方だと思います。
- 柳澤
- トーセイで単体をどんどんIFRSに近づけていったときに、現場で大変だったこと、うまくいったことはありますか?
- 相川
- 幸いトーセイの大きな基準間差異になっている論点は、日本の会計基準上でも十分に認められるものばかりだったので、ほとんど問題はありませんでした。細かい差異を挙げれば、例えば日本基準だと借入費用の資産化は特定の物件と紐づいたものしか認められていませんが、IFRSでは一般借入に関する費用でも場合によっては資産化しなければならないなどありましたが、トーセイに関してはそれもほとんど影響はなかったです。もちろん過年度遡及はしないといけないですし、それによる税務調整も発生するので技術的な面で手間がかかることはありましたが、それ以外のことに関してはそれほど問題ありませんでした。
ただ単体をIFRSに近づけるまでは経営管理資料は、全部日本ベースで作っていたと思うんです。加藤先生がおっしゃるようにそれがIFRSベースの外部公表用数字と違ってくるのは違和感がありますよね。会計上も様々な見積りの際に経営予測の数字を使います。それは本来はIFRSベースで検討する必要があるわけです。IFRSを適用したにもかかわらず、日本基準をベースとして経営予測を行うのは、会計上もおかしな話です。トーセイは可能な限り連単一致を進めていったことによって、理論的な矛盾もなくなり、これは非常に良かったと思います。
- 柳澤
- IFRSを適用して、投資家や銀行の対応で何か変わったことがありますか?
- 山口
- やはり会社のレピュテーションを確実に上げたということが大きいですね。J-GAAPとの両適用ですから、そういう能力のあるボードメンバーが運営している会社だということで、対銀行においてはアビリティの与信を上げたと思います。対投資家においても、IFRS適用とSGXとのダブル上場で、コンプライアンスとガバナンスをきちんとやっているという信用が得られたと思います。
- 柳澤
- IRの中で、IFRSのことを聞かれることはありましたか?
- 山口
- いちばん聞かれるのは、「IFRSには経常利益がない」ということですね。これは銀行にも言われました。決算数値を入力していて、経常利益がないと(笑)。やはり日本は経常利益で見るという文化なんですよね。
- 加藤
- そういう文化の違いは韓国にもあって、韓国ではむしろ経常利益よりも「営業利益」を投資家が重要視するらしいです。韓国の場合はK-IFRSといって、ピュアな、何も削除も修正もしていないIFRSを採用しているのですが、営業利益だけは追加で開示する許可をIASBからもらっているんです。IFRSには、そういうフレキシブルな対応もできるんですね。日本の投資家が経常利益が必要というなら、それはピュアなIFRSの中で追加すればいいんです。日本にももっと柔軟な対応が望まれるところです。
柳澤義一
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1956年東京都生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。公認会計士・税理士。
新創監査法人の統括代表社員として、上場企業の会計監査を中心に幅広い分野で活動。2004年より日本公認会計士協会常務理事。 2013年より日本公認会計士協会東京会会長並びに日本公認会計士協会(本部)副会長に就任。
相川高志
プロフィール
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慶應義塾大学経済学部卒業。公認会計士。
新創監査法人の社員として、現在は上場企業の会計監査を中心に活動。
日本公認会計士協会IFRS特別委員会委員。